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2020 03,16 13:46 |
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〔D〕 いかにしてみずからをリーダーへと高めるか わが組織の職員には、現在のおのれの現状にとどまることなく、是非ともみずからをリーダーへと高めていく努力をしてほしい。そのためには、上述したように種々のリーダーシップのスタイルを参照しながら、みずからの得手・不得手、向き・不向き、その他の特性などをふまえてリーダーシップを発揮しやすいみずからのスタイルを是非とも身につけてほしい。 そのために、いくつか留意点を追加しておきたい。 <a>観察し学ぶこと ジャパン・ラグビーの前ヘッドコーチであり、エディー・ジョーンズは、“指導者としての能力において重要なものは何ですか”と問われて、「まずは、すでに優れているリーダーを観察することです…他者から学ぶ、ということです。観察をして、いいリーダーから学びを得て、自分ではどうしていくのかを考えながら進めていくことです」と明快に言いきったとのことである。非常に興味深い。教育者としても有能であった氏の面目躍如である。まずは、身近にいる良きリーダーたちを観察し、そこから学ぶことを心がけてみよう。 <b>自分のスタイルへと高めること ジョーンズ氏は、先の引用に続けてこうも述べている。「他者から学びながらも自分のやり方で進めていかないと、他者をリードしていくことはできません。人にはそれぞれ違うやり方がありますから」と。これも含蓄ある言葉である。お手本となるリーダー像を参考に、自身がどうしたいのかについても考えながらみずからのカラーを打ち出していく。裏を返せば、たんなる他人の真似事だけでは真のリーダーにはなり得ないということだ。 ●「守破離」 ここで、まず日本に伝わる「守破離」という修行の段階規定に思いを馳せることも価値あることだろう。「守破離」とは、千利休の茶道の教えから始まり、伝統芸能・芸術や武道などに広く伝わる修行の精神にも貫かれた。 ・「守」…指導者の教えを忠実に守り確実に身につける。 ・「破」…指導者の教えを破り・自らの創意工夫をほどこす。 ・「離」…指導者の教えの良いものを取り入れ、自ら独自の型を創りあげる。 なんと気高く品格にあふれていることか。日本に生まれたものとしてちょっぴり誇りとし敬愛しないわけにはいかない。より良きリーダーの指導を観察し学びとり・みずからの創意工夫を交え・独自のリーダーシップのあり方を創りあげることが重要だということである。 ●「アウフヘーベン」 これと重なるものとして、ドイツ哲学に目を向けることも無意味ではないだろう。aufheben(アウフヘーベン)というドイツ観念論哲学の重要概念がそれである。この動詞は、ドイツ観念論哲学を最終的に構築したヘーゲルがその哲学において駆使した最重要概念のひとつとして知れわたっているが、「止揚」や「揚棄」と和訳されるこの概念には三つの意味が含まれている。①「解消する」・②「高める」・③「保存する」という三つである。換言すれば、哲学的な概念としての「アウフヘーベン」の主要な意味内容は、あるものを否定する(解消する)と同時に、それをより高次の段階において生かす(保存する)ことによって肯定側と否定側の両者の概念を統一する(高める)ということにあると考えられる。〔註2〕 他者のリーダーシップを学び・否定し・生かし・統一するという意味において、この「アウフヘーベン」に示されるガイスト(精神)は、「守破離」に示される理論的精髄と重なるものであるだろう。 〔E〕 いかにしてリーダーを育てるのか 〔D〕ではみずからをどのようにしてリーダーへと高めていくのかについてふれた。次に、いかにしてリーダー(シップ)を育てるのかについて考えてみたい。 <a>リーダーは組織が創り出し・育てる 〔A〕で述べたように- ●[ⅰ]法人業務課題実現のための方針解明 [ⅱ]上記法人業務課題実現のための組織方針の解明 [ⅲ]上記方針および組織方針にもとづく実践 この[ⅰ]~[ⅲ]なかでリーダーシップの発揮にかかわる問題を組み込む。 ●[ⅳ]業務組織・法人組織の建設の指針の解明 [ⅴ]上記組織建設指針にもとづく実践 この[ⅳ][ⅴ]においては、業務のとりくみのプロセスで問われたことをヒントに、アプローチを変えて組織の 建設をすすめていく。独自の研修や個別論議などをつうじてそれはなされる。 …これが、われわれのリーダー育成の基本的な形式的構造である。 <b>機能主義を超えて 「[研究ノート]リーダーシップ論」(以下〔研究ノート〕と略す)で述べたとおり、変革的リーダーシップ論の代表者の一人であるティシーは、課題を実現するために担い手にたいしてどのようにかかわるのかについて4つの領域を設定し担い手を育成すべきだと論じた。つまり、アイデア・価値観・エネルギー・エッジの4つを。 この論述は担い手たちをどのように高めていくのかというすぐれて実践的な問題として提示されている。このことは何度繰り返し確認しても無意味ではない。だが、その内実は、担い手に“アイデア・価値観・エネルギーを持たせる”という性格のものであり、外部から注入するというものへとおとしめられている。極めつきは、「従業員にも決断力を与える」という考え方である。決断力を与えるとは?何と!決断とは本人の自覚にかかわるのであり、このことを没却したこの暴論は、「与える」という機能の目的物であるかのように自覚概念を歪める機能主義の産物である。先の外部注入的主張も同様である。われわれは、そのためには、リーダーシップを発揮しうる担い手を確立するために全力でとりくまなければならないが、この機能主義を打破して、あくまでも哲学的な基礎として自覚論・主体性論を据えおく必要がある。 <c>日本的風土をふまえたリーダー育成を 〔研究ノート〕と本稿を通じて、筆者なりに変革的リーダーシップ論の限界を確認してきた。変革的リーダーシップ論を超えて、われわれは、みずからの哲学(実践論・主体性論、自覚論)や組織論を確立し、この土台のうえに、みずからのリーダーシップ論を構築していく必要がある。だが、日本的な風土を無視して構築していくことは不可能である。 変革的リーダーシップを生み出したアメリカにおいては、時代に取り残されてしまう企業は大胆に変革すべきであり、組織として新しい考えや新しいやり方を受け入れることが“グッジョブ”として肯定される土壌が大きくできあがっていた。それは、むしろ刷新の英雄的行為としてもてはやされたほどである。 だが、日本ではそうはいかない。日本の社会は、経済においても・政治においても・文化においても、本質的には大きな変化を望まない風潮・風土があるからである。日本では現状維持が優先される。日本人の持つ伝統的な価値観として、自身が属する組織・集団・グループの協調性を大切にし・それを守ることを行動規範にしている気風が通底している。そしてそこでの既得権益、つまり「悪くない現状」を維持しようという意識さえもが強い傾向にある。 アメリカにおいては個人主義の徹底ゆえに組織が位置づきにくい。したがって、アメリカ生まれのリーダーシップ論の直接的な持ち込みは日本では根づきにくいし、種々の不全をひきおこすだろう。反面日本においては、おおづかみなもの言いではあるが、集団への帰属意識の強さや強調主義のゆえにそれに属する担い手の主体性の確立が弱い。こうした協調主義や変革的でなく現状肯定的な日本社会の特殊性をふまえつつ・日本人的美徳ともいえるものは守りつつ・さらにすすんでそのような日本的特殊性そのものにも良い変化をもたらすような追求が、多くの分野でのリーダー育成のさいにもめざされることが望ましいわけである。 では、そのために何に留意すべきか。 <ⅰ> 日常的な意志決定を重視する… これは、〔B〕「リーダーシップ発揮を導く諸能力」のなかにあった「(1)明確なビジョンをもっている」・「(2)決断力がある」にあたることがらでもある。些細と思われる業務遂行においても、他の仲間と論議しながら・みずからの意見をつくりあげるよう促していくことが重要である。「上司が言っているから」とか「意見の大勢がこうだから」とかの次元にとどめることなく、おのれ自身の意見・主張を明確につくりあげ表明していく。そのような努力を本人ができるよう周囲もかかわっていくこと。 <ⅱ> 行動に価値を見い出す組織をつくる… これは、同じく〔B〕にあった「(3)行動力がある」にあたる。また、「(2)決断力」が直接的に関係する。わが組織においては、行動力のある担い手を軽視しその意欲を喪失させることがあってはならない。組織のためを思って行動されたことについては、正しい評価が下されるべきであり、それができる組織にしていくということ。 <ⅲ> 組織のコンセンサスづくりに注力する… 組織成員個々の意見をつくりあげ・引き出しながら、それをつうじて組織としてのコンセンサスをしっかりとつくりあげること。このことによって課題実現の指針・それを実現するための組織指針などは“皆でつくった方針”としての内実をもつことができるだろう。 <ⅳ> 組織内の信頼関係を確たるものとする… これは、〔B〕にあった「(7)信頼されている」にあたる。だが、その反面「他の担い手を信頼する」を付け加えなければならないだろう。リーダーシップをとるメンバーが、連絡がとれない、つねに“上から目線になる”、フォロワーにやらせるばかりで自分では何もやらない、相談にのってくれない…というのでは他の仲間の信頼を得ることはできない。逆に、指示を受ける者も、与えられた指示を実行に移さない、責任を果たさないおのれをさしおいてリーダーへの陰口・ため口に時間とエネルギーをさく…というのではリーダーシップをとるメンバーからの信頼を得ることはできない。 <ⅴ> コミュニケーションが生命線 このように考えてくれば、上記のすべてにわたってコミュニケーションが生命線であることにわれわれは、あらためて気づかされる。種々の機構からなら組織構成をみれば、それはいわば「組織の筋骨系統」をなすが、それにたいしてコミュニケーションは「組織の循環系統」をなす。自由で闊達なコミュニケーションという血液循環が損なわれるならば、組織体は壊死にいたるということに思いを馳せる必要がある。〔B〕のなかの「(4)コミュニケーション能力が高い」をわれわれの視点から読み取るならばこうしたことである。リーダーシップを発揮する者においては、他のメンバーの気持ち―疑問や不安・危惧など―をしっかりと聴き取り、丁寧な意思一致をはかることが問われる。他面、他のメンバーにおいては、組織のとりくみにおのれが積極的に参与できるよう質問・意見・提言・具申などをどしどしと表明することが問われる。こうすることによってはじめて、エネルギッシュで活発な組織内論議が陽の目を見ることになるだろう。 〔註1〕 ヘーゲルの弁証法においては、 ・まず、テーゼ(These=定立)と呼ばれる論理的には妥当であると思われる一つの概念が措定されたうえで、 ・次に、テーゼと同等に論理的に妥当な概念であると思われるものの、それとは正反対の性質を持ち、テーゼを否定する要素を有すると考えられる別の概念がアンチテーゼ(Antithese=反定立)として措定され、 ・さらに、この互いに対立するが、論理的には同等に正しいと思われる互いに矛盾する二つの概念がアウフヘーベン(Aufheben)と呼ばれる思考の働きによって、両者の概念自体はいったん互いに否定されたうえで、より高次の段階において、それぞれの概念の本質が保存される形でジンテーゼ(Synthese=統合=止揚・揚棄)されていく。 これが、ヘーゲルの弁証法の論理展開の基本構造である。 〔註2〕 武市健人『ヘーゲル論理学の体系』などを参照。 〔註3〕 本文において、エディー・ジョーンズ氏の主張を複数紹介したが、実際教師もしていた経歴をもつ氏は、日本人ラグビー選手を見て“ 従順で真面目だが失敗を極端に避けようと躊躇する」と喝破し、日本人的風土をふまえた的確で秀逸な指導をしてきたことは記憶に新しい。 2020年3月9日 伝 健 (でん たけし) PR |
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